裁判と時効の援用について

時効の援用とは

 借金をしてから、何らかの事情によって何年も返済していないような状況か続いた後で、ふいに督促状などが債権者から送られてきたり、裁判所から支払督促や訴状などが届いたりすることもあります。このような場合には「消滅時効(しょうめつじこう)を援用(えんよう)」することによって、法的な支払い義務から免れることができる場合があります。
 消滅時効とは、ある権利が一定期間行使されない場合には、権利そのものを消滅させてしまうという制度です。上記の例でいえば、債権者は債務者に対して「貸金返還請求権(貸した金を返せと要求できる権利)」 を有していたのですが、それを一定期間行使(単に払えと要求するだけではなく、裁判などを)しないでいると、もはやその権利自体が消滅してしまうという制度です。


 消滅時効の対象になる権利は「貸金返還請求権」のほか、「立替金(クレジットカードのショッピング利用料など)支払請求権」や「売買代金請求権」などがあります。また、過払い金も「不当利得返還請求権」という債権なので、消滅時効の対象になります。


 なお、時効には「取得時効(しゅとくじこう)」と「消滅時効(しょうめつじこう)」の2種類がありますが、このサイトは債務整理のサイトなので、取得時効の説明は省略します。


 「時効の援用(じこうのえんよう)」とは、時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成を主張することです。例えば、債務者(時効を完成させることで借金の返済義務を免れることができる人)が、債権者(昔お金を借りていた業者など)に対して、「時効だから、もう支払いませんよ」というように、自分の意思を伝えることをいいます。時効を援用すると、法的にも借金の返済義務はなくなります。


 時効の援用は、法的には口頭で債権者に対してその旨を告げることでも成立しますが、通常は、時効を援用したことを証拠として残すためにも、内容証明郵便などを利用することが多いです。内容証明郵便というのは、郵便物の差出日や差出人、宛先や文書の内容を日本郵便株式会社が謄本により証明する特殊な郵便です。つまり、「この手紙をいつ、誰に、この内容であなたが出しました」ということを、国(総務省)から業務を受託している日本郵便が証明するものです。また、同時に配達証明も利用することで、その郵便物が配達された事実と配達日付を証明することも可能となります。また、時効の期間が経過した後に債権者から支払督促を受けた場合には異議申立書で、債権者から訴えられた場合には答弁書で時効を援用することもできます。


 それでは、消滅時効は、どの時点からカウント(起算)して、どのくらいの期間が経過すれば援用できるのでしょうか。


 まず、いつからこの年数をカウントするか(これを「起算点」といいます)ですが、原則的には「最終の返済期日」の翌日からです。例えば、毎月27日に返済すべき債務があって、3月27日まではきちんと返済できていたものの、4月27日以降の支払いがまったくなかったような場合には、その日の翌日である4月28日から起算します。つまり、延滞になりはじめた日からカウントすることになります。


 ただし、借金には、住宅ローンや自動車ローンのように、最初にまとまったお金をドンと借りて、あとは毎月決まった日に決まった額をひたすら返していくタイプのものと、銀行や消費者金融、信販会社のカードローンやキャッシングのように、契約時には限度額を決めておいて、その範囲内で借り入れと返済を繰り返していくタイプのものがあります。また、立替金(ショッピング)債務についても、翌月一括払いや〇回分割払い、あるいはリボ払いといったものがあります。それぞれについて、「最終の返済期日」は微妙に異なってきます。


 また、途中で何度か返済が遅れた日があったものの、その後も遅れ遅れながら返済を続けていたような場合には、その返済をした都度、時効が「リセット」(法律用語では「時効の更新」、改正前の民法では「時効の中断」といいます)された扱いとなるので、「最後に返済した日」の翌日からカウントします(なお、返済期限を定めない債務については、「お金を借りた日」の翌日からカウントしますが、親兄弟や知人友人ならいざ知らす、業者から借りた場合で返済期限を定めないことは想定されないので、ここでは説明を省略します)。


 次に、期間に関しては、令和2年4月1日から民法の債権法分野の改正法が施行されたため、その前後で扱いが異なります。


 令和2年3月31日までに借入やクレジットカードの契約をした場合は、改正前の民法が適用されます。この場合、銀行や消費者金融からの借金、信販会社からの借金(キャッシング)や立替金(ショッピング)については5年間です。一方、信用金庫や個人事業の貸金業者からの借金については10年間です。また、裁判で判決が確定した権利に関しては、上記で5年間と書いたような権利についても、判決確定の日から10年間です。


 令和2年4月1日以降に借入やクレジットカードの契約をした場合は改正法が適用されますが、この場合には借入先の業者の形態を問わず、一律で5年間ですが、裁判で判決が確定した権利に関しては、判決確定の日から10年間です。


 つまり、おおむね「最後に返済した日」と「最後に借りた日」の、どちらか遅い方から計算して5年(10年)+1~2か月程度が経過していれば、消滅時効を援用できる可能性があります(最終的な判断は専門家に委ねることをお勧めします)。


 ただし、債権者の側としては、債務者に消滅時効を援用されると、貸したお金がある意味「合法的に踏み倒されて」しまう結果となります。そのため、これを阻止しようとして動くことも当然あります。


 例えば、債権者が時効の完成前(上記で説明した期間の経過前)に、債務者を相手に支払督促や訴訟をしたり、調停を申し立てたりすると、時効はリセットされます。一方で、債務者の側から債務の一部を返済をしたり、債権者に対して返済の猶予や延期をお願いしたりすると、債務がある事を「承認」したことになり、やはり時効はリセットされてしまいます。


 また、債権者が債務者に対して、時効の完成間際に「督促状」を郵送してきた場合には、どうなるかというと、その場合は時効の期間が債務者がその督促状を受け取ってから6か月間だけ延長(法律用語では「時効の完成猶予」、改正前の民法では「時効の停止」といいます)されます。もっとも、これは暫定的なものなので、その6か月間に債権者が債務者を相手に支払督促や訴訟をしたり、あるいは債務者の側から債務を承認するような行為をしたりしない限り、時効はリセットされません。


 それでは、債権者が時効の完成後(上記で説明した期間の経過後)に、債務者を相手に支払督促や訴訟をしたり、督促状を送りつけたりした場合はどうなるかというと、この場合、時効はすでに完成しているので、時効はリセットされません。つまり、債務者が消滅時効を援用すれば、債権は消滅し、債務者としては支払い義務から解放されことになります。


 ただし、時効の完成後(上記で説明した期間の経過後)に、債務者の側が債務を「承認」した場合は、債務者は消滅時効を援用することができなくなります。これは、債務者が時効の完成を知らない場合でも同様です。つまり、本来ならば消滅時効が完成しているにもかかわらず、債権者から訴えられたり、督促状を送りつけられた債務者が「うっかり」あるいは「あわてて」債権者に連絡をとり、「返済は少し待ってください」とか「利息をもう少しおまけしてもらえないか」とか「分割払いにできないか」とか、債務を「承認」するような態度をとってしまうと、もはや消滅時効を援用できないということになります。


 そして、債権者の側はこのことを熟知していますので、時効の完成間際、もしくは完成後に、債務者に対して「今すぐこの電話番号に連絡をすれば、分割払いに応じます」とか「10日以内に1万円だけ支払えば、延滞金は大幅にカットします」とか、債務者に一見有利そうな条件を記載した督促状を送りつけて、あの手この手で債務者に債務を「承認」させようとします。そして、債務者から電話があれば当然録音をして、時効がリセットしたことの証拠として保存しておきます。


 したがって、債務者の側としては、時効の完成間際や完成後に(その判断が微妙な場合も含めて)債権者から督促状や訴状などが届いた場合には、自ら債権者に連絡することはせず、まずは弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。


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