裁判と時効の援用について

支払督促が届いたら

 借金やクレジットカードの未払金の返済をしないまま長期間が経過すると、簡易裁判所から「支払督促」という表題の付いた文書が届くことがあります。支払督促は、受け取った日から2週間以内に対応しないと、預貯金口座や給与などを債権者に差し押さえられてしまう可能性があります。
 支払督促とは、債務者に対してお金を貸したり立て替えたりしている債権者が、簡易裁判所に申し立てて、訴訟よりも簡易、迅速な手続きで、強制的にその債権を回収する手続きのこと(あるいは、その手続きで裁判所から債務者に送付された文書こと)をいいます。


 支払督促を受け取った債務者は、受け取った日から2週間以内なら異議を申し立てることができますが、この期間内に異議を申し立てないと、債権者によって預貯金口座や給与を差し押さえられてしまうことがあります。具体的には、債権者によって自分の預貯金口座にあった残高を強制的に引き落とされてしまったり、給与の4分の1を債権者に持っていかれたりすることになります。


 ここで問題となるのは、例えば、債務者がある銀行から住宅ローンを借りており、その住宅ローンについては毎月きちんと支払っている場合であっても、別の貸金業者からの借金の返済が滞っていたことによって支払督促を受け、その住宅ローンを組んでいる銀行の口座を差し押さえられてしまうと、住宅ローンの約款にある「期限の利益喪失条項」に引っかかってしまい、住宅ローンについても一括返済を求められる可能性がある事です。


 また、給与の差し押さえを受けると、債務者の雇用主に対して、裁判所からの差押通知書が届きます。そして、雇用主はこの差押通知書を受け取ったら、給与の4分の1を債権者に対して直接支払わなければなりません。つまり、債務者にしてみれば、自分が借金の返済に困っていることが、100%雇用主にばれてしまいます。そうなると、雇用主から「この従業員はお金に困っているので、会社の金銭を横領されるかもしれない」というような目で見られてしまう危険性もあるということです。


 したがって、支払督促を受け取ったら、とにかく2週間以内に異議申し立てをする必要があります。なお、債権者は、必ずしも自分がお金を借りたり、クレジットカードを作っていた会社とは限りません。もともとの債権者(銀行など)と保証委託契約を結んでいた会社(保証会社など)や、債権を譲り受けた会社(債権回収代行会社など)の場合もあります。そのため、聞いたことがない会社から訴えられた場合でも、とにかく異議申し立てをする必要があります。その際に、異議申し立ての理由は何でもいいのです。借りたのが事実であっても時効を主張したいとか、分割で払いたいといった理由でも結構です。


 異議申し立てをすると、支払督促は効力を失い、通常の訴訟(裁判)に移行します。あとは訴訟の中で借入の事実を争うなり、時効を主張するなり、分割払いの交渉をするなりすればいいのです。


 ちなみに、支払督促は、お金を借りた側である「債務者」の住所地(例えば金沢市)の簡易裁判所(例えば金沢簡易裁判所)で受付が行われます。そして、債務者が督促異議を出して通常の訴訟に移行した場合には、そのままその簡易裁判所で訴訟が行われることになります。そのため、債務者としては、自分の近くの裁判所で債権者と争ったり交渉を行ったりすることができます。これに対し、債権者が最初から通常の訴訟で債権回収を行う場合は、「債権者(原告)」「債務者(被告)」のどちらの住所地の裁判所でも受付が可能です。債権者としては当然、自分の住所や本店所在地(例えば東京都〇〇区)の裁判所(例えば東京簡易裁判所)で訴えを起こす方が便利なので、債務者にとっては遠隔地の裁判所で債権者と争ったり交渉を行ったりすることになってしまい、交通費などが余計にかかってしまいます。そのため、裁判所の管轄については、債務者にとっては訴訟よりも支払督促の方がありがたい面はあります。


 ただし、支払督促の怖いところは、支払督促は訴訟よりも簡易、迅速な手続きで行えるため、債権者が簡易裁判所に支払督促を申し立てる際には、通常の訴訟ほどきっちりとした証拠をそろえる必要がないことです。また、申し立てを受け付けた簡易裁判所の側でも、形式さえ整っていれば、債権者の主張のが正しいかどうかを審査することなく、また、事前に債務者の言い分を聞くこともなく、支払督促が発せられる点です。


 そのため、極端な話、自分には全く身に覚えのない借金(人違いや他人のなりすましなど)による支払督促であっても、また、「自称債権者」が貸してもいない借金をでっち上げて行った支払督促であっても、2週間以内に異議申し立てをしないと法的にはその借金は「ある」ことになってしまい、支払わないと預貯金口座や給与の差し押さえを受けてしまうこともありえるということになります。


 ちなみに、「支払督促」という表題の書かれた文書を普通郵便で不特定多数の人に送り付けて、商品代金やアダルトサイトの利用料が未払いであるので支払えというような架空請求詐欺の手口があります。また、そのような場合には、差出人が「法務省債権回収センター」など、もっともらしい名称になっていることが多いですが、本物の支払督促は、差出人は簡易裁判所で、必ず「特別送達」という特殊な郵便で送られてきます。特別送達は書留郵便と同じで、本人や同居人が郵便局員から手渡しで受け取り、その際には署名や押印が必要ですので、見分けるのは簡単です。


 偽物の支払督促であれば放置しておけばいいのですが、本物の支払督促の場合には、たとえ身に覚えのない場合であっても、とにかく2週間以内に異議申し立てをすることが必要です。もちろん、身に覚えのある場合であっても、差し押さえを防いで分割払いなどの交渉をするためには、やはり2週間以内に異議申し立てをすることが必要です。


 ちなみに、支払督促を使い慣れている業者は、わざわざGWやお盆休み、年末年始などの長期休暇の直前に支払督促が届くようなタイミングを見計らって申し立てを行う場合があります。そうなると2週間なんてあっという間に過ぎてしまいます。


 したがって、裁判所から支払督促の特別送達を受け取った場合には、一刻も早く弁護士や司法書士などの法律家に相談することをお勧めいたします。

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